蝉のトンネルをみつけた。
今日の朝早く、ここから一匹の蝉が外の世界に出てきたのだろう。
僕はこの真っ暗な穴を見ながら、蝉の気持ちになって想像してみる。
-- 土の中では上を歩く生き物の振動がにぎやかで、樹の根っこからのジュースは季節によって少しづつ風味が違って飽きる事がない。
そう、地面の中は暑くも寒くもなくて、快適だった。
だから、それでも穴を掘り、そして穴を掘り、最後のひとかけの土をどけて、外に這い出してきた時の気持ちは、さぞや嬉しかったろうと思うだろう?
だけど、そうじゃないんだ。 その時の僕は身体を覆う茶色の皮がきつくて、早く脱ぎたくて、全くそれどころでなかったのさ。
今は高い樹のこずえで、外の世界と新しい経験をを味わってる。--
僕は木漏れ日の間で、この穴のヌシの事をそんなふうに想像した。
(2014年8月)