草の萌え出した陸(おか)から、私は見えない海面下を想像する。
今頃、海中にはたなびく森や草原がひろがっているはず。
陸では波が打ち寄せる岩の上に、たなびく卵塊を抱えたお母さんの蛸。
「私が抱えてるのは海の一部。そして守っているのはかわいいだいじな子供達」
私の縄張りの海は、水温が上がり出すとともに、海藻がどんどん減っていきます。
陸では秋に樹が落葉するように、ワカメやホンダワラなどが夏にむけて枯れていくのです。
ほんの稀にですが、ぶるぶるがたがたしながら水温が上がる前の海に水中眼鏡をつけて入ることがあります。
すると海面下では、外からでは想像もつかないくらい美しい森や草原のような景色がひろがっているのです。
それは私にとって決死の覚悟でしか見れない夢のような光景。
(2016年 4月)